社長失格【書評】


ハイパーネット社の立ち上げ以前から同社の倒産までをつづった社長本人による回顧録。
グイグイひきこまれてサクサク読めてしまう。なんと、南場智子さんも社員にすすめたほどの名著。
サラリーマンでこの本に興味をひかれない人はいないだろう。
本書につづられているのは倒産への悲惨な過程だけではない。
インターネット黎明期における独特の興奮も臨場感をもってたのしめる。
とりわけ、社長が知人とアメリカへ出張したおり、わざわざ遠くの空港でおりて車で目的地のラスベガスに向かったくだりがオモシロい。
飛行機の中で事業プランのシュミュレーションをしたり、知人の招待でステーキハウスをおとずれたり、立ち上げ時の充実した仕事ぶりもえがかれている。

倒産への分水嶺となる時期からくらーい記述がつづきグイグイひきこまれてしまう。
自分の創業した会社が倒産して、それを本にした人は日本では著者お一人くらいだろう。
そうした意味でも貴重な本。
ちなみに元マイクロソフト社長の成毛さんが何度か本書に登場する。その場面はなぜかニヤニヤしながら詳細に読んでしまう。
わたしは成毛さんの本を結構な冊数を読んだが、そこではいつも成毛さんの視点で書かれている。当然ながら。
それが板倉さんの視点で描かれていると、なんだか成毛さんが幽体離脱したみたいでニヤニヤしてしまうのだ。
「あっ!、成毛さんだー」みたいな(笑)

文章も読みやすく当時の雰囲気がありありとつたわってくる。
支援を期待していた会社からの連絡を早朝から待機していたが、結局は肩透かしとなった日の描写が秀逸。本書から引用-
「九月二九日月曜日、ぼくたちは、朝早くから出勤していた。大日本印刷から電話がかかってくるのを待つためだ。~中略~
会長兼社長室で、ぼくは森下とこれまでの半年間を振り返りながら話をしていた。~中略~
銀行のいったん返済話をうっかり信用したこと、~中略~孫さんと会ったこと、それに最近の自分も含めた役員達の資金難のこと、~中略~
それにしても久しぶりに静かな一日だった。
話も尽きた。すでに八時間が経過した。そろそろ日も落ちる。なのに一向に連絡はない。」
何回も読み返して味わうタイプの書籍ではない。それでも、回顧録としては名著だろう。
まだ読んでいない人には絶対おすすめの一冊!